歯みがきの広まりに仏教が深くかかわっていることを、皆さんはご存知でしたでしょうか。
古代インドでは、お釈迦様が、弟子たちの口がくさいため、
仏前に詣(もう)でる前に「歯木(しぼく)」で歯を清掃することを勧めました。
古代インドで使われていたサンスクリット語(梵語)に「ダンタカーシュタ」という単語があります。
「ダンタ」は歯、「カーシュタ」は木を意味するので、直訳すると「歯木(しぼく)」となります。
これは、細い棒の先端をかんで繊維を房状にして、歯と舌を掃除する、歯ブラシの原形のような道具です。
お釈迦様ご自身が弟子たちに説いた言葉をまとめた仏典の中に「律蔵(りつぞう)」がありますが、
そこには、歯木についての教えがいくつもあるそうです。
例えば「その時、僧たちは歯木をかまず、口が臭かったので、
世尊(お釈迦様)は、歯木をかむことの5つの利益を説いた」とあります。
その5つの利益とは、(歯木を使えば)①口臭がなくなる、②食べ物の味がよくなる、
③口の中の熱をとる、④痰(たん)をとる、⑤眼がよくなる、ということです。
もし、何日も手入れをしなかったら、口の臭いはどうなることか?
想像するとおそろしいですね。
そんな弟子が多くて、その口臭にお釈迦様もたじろいだのかもしれません。
仏教の教えとともに、歯木の戒律も中国に伝わりました。
しかし、インドで歯木によく使われているニームの木は中国にはありません。
そこでヤナギの小枝が使われたため「楊枝(ようじ)」という名称になりました。
『華厳経(けごんきょう)』(八十華厳経・第十一)には、次のような内容があります。
「楊枝を手に持てば、まさに願うべし。すべての生けるものが、心に正しい秩序を得て、自然に清らかになるように」
楊枝を手にして願うことは壮大です。
楊枝(歯木)は、宗教的な意味合いを深め、強調されるようになりました。
参考 『いい歯は毎日を元気にプロジェクト』HP、『ライオン歯科衛生研究所』HP、『ビバテック』HPほか